「未来永劫、終わらない」、八海醸造の地域と共に生きる経営(前編)

コシヒカリをはじめ、日本有数のお米の産地である、新潟県南魚沼市。この町の中心より少し北に、長森という地域があります。長森は銘酒『八海山』を製造する八海醸造のホームグラウンド。大正11年(1922年)よりこの地で良質なお酒をつくり続けています。
東京から車でおよそ3時間。縁あって、『八海山』と長森を巡るプチ旅に出かけました。

■人の温度が感じられる、みずみずしく美しい里–長森

長森を訪れたのは、東京では桜の季節を過ぎた4月の中旬。しかし、ここではまさに「今が見ごろ」と言わんばかりに花が咲き誇り、少し先に目線を延ばせば、ここかしこに淡いピンクが飛び込んできます。

そして特筆すべきは、人と自然の調和がとれた里の景色です。ビルが立ち並ぶわけでもなく、原生林にいるわけでもない。道を挟むように田畑が広がりながらも、人の住まいが心地よい感覚で建っている。田んぼの脇には清流が音を立て、道端の草や木々が雪国の冬の厳しさから解放されたように目を覚まし、まだ茶色が目立つ里の景色に色を添えます。

自然のみずみずしさと、人の温もりが感じられる美しい里――それが、長森の印象です。

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Photo by y.amanatto

■良質なよい酒を、たくさんつくる

八海醸造の「第二浩和蔵」は、数々ある日本酒『八海山』のうち「普通酒」と呼ばれる最もポピュラーなものなど、通常商品を中心につくる製造拠点です。2004年につくられたこちらの蔵は、日本酒づくりのオフシーズンである夏場を除いて、毎日のように稼働しています。白米3トン分相当の仕込みタンクを66本擁し、1日に数トンという単位で米を洗い、浸漬し、蒸し上げるオリジナルの機械など、数字や設備からは画一的な大量生産をイメージしてしまいそうですが、それは違います。

「ふだん使いのお酒こそ、吟醸酒と同じレベルをめざすべき」というのが、八海醸造のポリシー。原料の米は吟醸酒にしてもおかしくない磨き加減(精米歩合)、そして製法の一つひとつに大吟醸の製造技術を応用しています。

このため、機械を用いて効率化を図るところと、人ならではの感覚や加減を生かして手作業にするところの両立がポイントに。例えば、酒母づくりの決め手となる麹の種つけ。室温40℃を越える麹室の中で、種麹を撒きその後丁寧に米を揉みほぐしていきます。一方で、麹室のコンディションは機械の力を借りて、的確な管理を行えるようにしています。

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Photo by y.amanatto

 

■食事に合う酒へのこだわり

南魚沼には、雪国ならではの気候風土を生かした独自の食文化があります。

そのひとつが、「煮菜」と呼ばれるもの。葉物のとれない冬場に備え、この地域では秋に青菜の漬物を仕込む習慣があります。しかし、冬の終わりには古漬けになり、味が落ちてきます。そこで、漬物の塩気を軽く抜いた後、油揚げなどと一緒にだしで煮て食べるのです。

また蕎麦のつなぎに布海苔(ふのり)を用いた、へぎそばも有名です。この地域は、かつては繊維業が盛んでした。糸を糊付けするのに、当時は布海苔が使われていたのです。『八海山』の麹づくりにも用いられる「へぎ」と呼ばれる木枠に、蕎麦を1口ずつ小分けに盛り付けるのもへぎそばの特徴。つるりと喉越しがよく、濃い目のつゆと相性抜群です。

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Photo by y.amanatto

そして『八海山』、中でも力を入れる普通酒や本醸造などは、こうした食事との相性を意識してつくられたお酒なのだといいます。

確かに米を極限まで削ってつくられる大吟醸は、余計なものが感じられない澄み切った飲み口で、多くの人の心をつかみます。しかし、お酒は料理と合わせるもの。それぞれの素材や料理の個性や特徴を上手に引き出し全体のバランスをとるには、お酒の旨味や口当たりのまろやかさがポイントとなるのです。

主役は酒ではなく料理――『八海山』の粋な心意気が、ふだん使いのお酒に隠れています。